昨日の[HRPニュースファイル175]にありますように、2006年の日米合意では「普天間基地移設還」と「米海兵隊8000人のグアム移動」とがパッケージとして計画されていましたが、日米両政府は両者を切り離し、先に4700人をグアムに移転させることで合意しました。
この見直しの背景には、普天間移設の見通しが立たず、移設が進まないことで、アメリカ議会がグアム移転費を2012会計年度の国防権限法案から削除するという結果に至った(上院では予算案凍結、下院で予算案認可)ことから、再編を急ぎたいアメリカ政府の思惑があるものと見られます。
自民党議員からは、こうした「米海兵隊の先行移転」について「抑止力低下」を懸念する声が相次いでいます。
今回の米軍再編の見直しは、果たして、日本の安全保障の「抑止力低下」をもたらすのでしょうか?また、「日米同盟」弱体化をもたらすのでしょうか?
まず、今回の再編見直しでは「普天間基地移設」と「海兵隊グアム移転」分離よりも、海兵隊のグアム移転に関するロードマップ(行程)の内容が大きく変わったことに注目すべきです。
その理由は、今年1月に発表されたアメリカの新国防戦略において「アジア太平洋地域」に米軍の重点を移すことと大きく関係しています。
新国防戦略では「アジア太平洋における同盟国」(日本、韓国、フィリピン、オーストラリア等)との関係が「安全保障の重要な基盤」であるとされています。⇒http://goo.gl/F0qSK
米政府としては、海兵隊のグアム移転の規模を8000人から4700人に縮小し、残る3300人程度はハワイ、豪州、フィリピンなどの基地にローテーションで派遣する意向だと報じられています。
沖縄に残る米海兵隊は司令部、陸上、航空、戦闘支援及び基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成される第31海兵隊遠征隊となります。(外務省:再編実施のための日米のロードマップ⇒http://goo.gl/VHiQV)
この部隊はアメリカ海兵隊の緊急展開能力を担う部隊として、7つある海兵隊遠征隊の中で唯一、海外に展開している部隊であり、同部隊が日本に駐留していることは、島嶼を守る自衛隊との連携を踏まえ、「抑止力」維持のために極めて重要です。
確かに、見た目の在日米軍の「プレゼンス」は低下しますが、アジア太平洋全域の視点で見ると、日本のみならず、フィリピン、オーストラリアなどの米国の同盟国による中国包囲網が強化されることで、中国の侵略行為に対する全体的な「抑止力」は高まります。
そして、オーストラリアやフィリピンを含むアジア太平洋地域の米軍(米太平洋軍)は、在日米軍を中核とし、様々な事態に柔軟に対処していくことが予測されます。
すなわち、米軍再編の見直し案が実行されれば、中国を意識した米軍の「アジア太平洋重視」戦略が強化されると共に、在日米軍の役割が急速に拡大するため、「日米同盟」はますます重要なものとなります。
その意味でも、野田政権は普天間基地移設問題の円滑な解決を図り、「日米同盟」を迅速に修復していく必要があります。
また、局所的な「米海兵隊のプレゼンス低下」を補完するためには、南西諸島の島嶼防衛に向け、沖縄に残る米海兵隊と自衛隊との連携強化を図ると共に、陸上自衛隊の「海兵隊化」を早急に進める等の「自衛隊再編」や「自主防衛強化」が急務であります。(文責・黒川白雲)
[HRPニュースファイル176]米軍海兵隊の先行移転により、抑止力は低下するか?
2月 7th, 2012
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