今回は、増税とエネルギー問題を題材にしながら、デフレ脱却を再考します。
学習院大学の岩田規久男教授の著書『インフレとデフレ』に従えば、日本経済の1980年から1990年までの10年間の平均インフレ率は2.6%、91年から01年は0.7%、02年から07年は-0.2%、08年から11年は-0.3%となっています。
アメリカやイギリスなどの主要先進国でも1980年代以降はインフレ率の低下=ディスインフレ傾向ですが、日本の水準は際立っていることが分かります。
特に、岩田教授が主張している論点は、08年のリーマンショック以降、先進国でデフレなのは日本だけだということ。
ショックの震源地であるアメリカは、08年から11年までの平均インフレ率は2%です。つまり、日本のデフレは政策に問題があるということです。
物価水準の操作は、基本的に日本銀行(以後日銀)が担当します。2月に事実上のインフレ目標導入を決定した日銀が発表した「中長期的な物価安定の目途について」にも、「物価の安定を図ることを通じて、国民経済の健全な発展に資すること」を基本理念とすることが書かれています。⇒http://goo.gl/gZ3ld
日銀は、消費者物価指数の上昇率を当面は1%を目途としており、長期国債購入基金の積み増しを行いました。
過去の日銀の姿勢からは半歩前進とはいえ、まだまだ本格的なデフレ脱却からは遠い点を、私の論考の中でも数回紹介しています。⇒http://www.hr-party.jp/new/2012/22890.html
そこで、最近話題になっている増税とエネルギー問題を絡め、これまで考慮されていない「デフレの脱却」の論点をあげておきましょう。
基本路線は、日銀の金融政策と財政出動によるポリシーミックス(政策の組み合わせ)です。経済が順調に拡大し、物価も少しずつ上がっていく限り問題はありません。雇用が創出され、成長率が高まれば、デフレ脱却と成長の実現により、国民の生活は楽になります。
しかしながら、一般物価指数は政策以外の要因によっても変動します。
例えば、資源価格高騰がインフレにつながるケースです。
わが国では、1970年代に二度のオイルショックがありました。中東の産油国で形成されるOPEC(石油輸出国機構)が石油の輸出を全面的に停止したことが原因で起こったインフレは、庶民の生活に大きな影響を与えました。
その後、産油国の意図的な原油価格つり上げは起こりにくくなりましたが、中東では紛争や戦争が起こる可能性が高いのは否定できません。
仮にホルムズ海峡で問題が起きた場合、わが国は石油の輸入に四苦八苦することになるでしょう。その結果、原油価格高騰による電気代負担の上昇だけではなく一般物価水準も上昇する可能性があります。
資源を輸入に頼っているわが国は、資源価格の変動に脆弱であるということを再認識するべきです。
さらに問題なのは、インフレが不況時に起こるケースです。最悪の場合、インフレと不況が同時に襲うスタグフレーションが再来する可能性があること。
その結果としてデフレが脱却できたとしても、失業率の増大や成長率の低下という高い代償を払わなければなりません。
もう一つが、野田首相が政治生命をかけて取り組んでいる消費税増税問題です。
増税をすることで、短期的には物価が上昇します。例えば、2014年に8%へ、2015年には10%へと上がることによって、一般物価も1%以上上昇したならば、日銀は労せず中長期的な目途を達成したことになります(あくまでも仮定の話)。
ただし、この議論に足りないのは、増税による消費や投資の落ち込みによる成長率の低下によって、再びデフレとなることを想定していないことです。
1997年4月に消費税が3%から5%に上がった後に何が起きたかを考えれば、増税がもたらす効果は明らかでしょう。
「デフレの脱却」だけでは、論点はいくらでもとれるので、やはり、高い成長と雇用の創出を最優先し、その結果としてデフレ脱却ができるとした方がよいでしょう。
さもなければ、予期せぬ短期的なインフレが生じた場合、「インフレを抑制するために増税をして財政再建をするべき」という論点が出てくる可能さえあるからです。
日銀は、インフレ懸念があるだけでも金融引き締めに入ります。そうすれば、日本経済は一層冷え込むことになります。
幸福実現党は、日本経済がさらなる長期不況に突入しないためにも、増税ストップと原発の再稼働などを通じてエネルギーの安定供給を継続して主張していきたいと考えます。(文責・中野雄太)
[HRPニュースファイル338]デフレ脱却だけでは不十分?増税とエネルギー問題が日本経済に及ぼす影響
7月 18th, 2012
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