「百戦百勝は善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」
これは『孫子』の諜攻篇にある戦略であり、中国人が三千年来心掛けてきた戦い方だと言われています。
「戦わずして勝つ」ことで、自らの損害を出さず、かつ相手の富も損なうことなく、そっくりそのまま手に入れることができます。そのため、中国は世界中での外交交渉・諜報活動に大きな力を入れています。
5月31日、東京の在日中国大使館に勤務していた元1等書記官が4年前、外交官の身分を隠して外国人登録証を不正に入手していたとして、警視庁は外国人登録法違反などの疑いで書類送検しました。(5/31 NHK⇒http://goo.gl/PNpgU)
李春光書記官は、人民解放軍の諜報機関の出身者で、松下政経塾にも海外インターンとして在籍したこともあります。農水省の副大臣室に出入りし、中国の国有企業を日本に紹介するなど、農産物の対中輸出促進事業に深くかかわっていました。
鹿野農相グループの衆院議員の公設秘書(当時)が代表を務める協議会が李書記官と深いつながりを持っており、この代表を通じて農水省の内部資料(3段階で最も機密性の高い「機密性3」も含む)を把握し、諜報活動をしていたようです。(5/30 読売⇒http://goo.gl/KL1J1)
このような問題が出て来た際、必ずボトルネックになることがあります。それは、日本には「スパイ防止法」がないということです。
かつて昭和60年に自民党が国会にスパイ防止法案を提出しましたが、廃案になっています。日本に「スパイ防止法」が存在しないことで、どのような問題が発生しているのでしょうか。
(1)国家機密の流出を止めることができない
国家機密を守る基礎として、国家公務員法や自衛隊法などの公務員の守秘義務規定はありますが、そもそも秘密の保護を目的としたものではないため、漏えいした秘密の内容や程度が問われません。
例えば、昭和55年におきた自衛隊スパイ事件で、主犯の元自衛隊幹部宮永は、ソ連に秘密情報を売り渡していたにもかかわらず、万引きやコソ泥と変わらない、たった懲役一年でした。また、国家意識が希薄な民間人がスパイ行為に協力したとしても、罰することができません。
(2)そのため、他の法律で取り締まるしかないが不十分
2007年に中国人技術者に製品の図面データを大量に盗まれながらも、データが競合関係にある組織に渡ったことを立証できなかったために起訴を断念せざるをえなかった「デンソー事件」を契機に、2009年に軍事スパイ行為を抑制する改正外為法、産業スパイを抑制する改正不正競争防止法が成立しました。
しかし、現状は逃げる強盗の車をスピード違反でしか取り締まれないと言われているような状態で、スパイ行為の取締りの限界が指摘されています。
冷戦時代、スパイにとっての世界三大マーケットは「東京、ベルリン、ベイルート」と揶揄され、ソ連軍の情報部将校、スヴォーロフは「日本はスパイ活動に理想的で、仕事が多すぎスパイにとっては地獄だ」と語っていたそうです。
先日、孔子学院(中国語や中国文化を広めることを名目にしているが、スパイ機関である可能性が高いと言われている。日本の大学にも数多く開設されている)に対して、米国務省が中国人教師のビザ更新を認めず、小中学生向けの指導を禁じるなどの内容の通達を発表しました。(5/26 産経⇒http://goo.gl/cAkv0)
結果的には、一週間余りで通達が撤回になりましたが、スパイ組織に対する毅然たる対応は、米に学ぶべき点があります。
一方で、孔子学院がスパイ組織であることを分かっていながらも、経済的関係から信念を貫き通せなくなっているのが、弱体化し、中国に対して弱腰になっている米国の現状でもあります。
だからこそ、日本がスパイに対する防止策を強化し、毅然たる態度を示さなければなければならないのです。
中国政府の靖国神社参拝に関する内政干渉問題や尖閣諸島の「核心的利益」発言、また国内で行われている「脱原発」をはじめとする左翼運動や沖縄での「反米軍基地活動」などは、「戦わずして日本を併合する」ための工作の一環です。
スパイは、多くの人々の知恵と努力の結晶を盗み、それらを軍事転用するなど、自国の利益のみを追求しています。政府は防衛と外交に関する国家機密を守ると共に、他国にも悪を侵させないことも考えるべきです。
日本は「スパイ防止法」を一刻も早く制定し、国際的に見てあまりにも非常識な状況から早急に脱すべきです。(文責・HS政経塾1期生 湊侑子)
[HRPニュースファイル290]中国大使館元1等書記官を書類送検――一刻も早く「スパイ防止法」を制定せよ!
5月 31st, 2012
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