[HRPニュースファイル212]日銀の金融緩和から一ヶ月を総括

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日本銀行(以下日銀)が2月14日に発表した「中長期的な物価安定のめど」からちょうど一ヶ月が経過しました。

白川方明日銀総裁が頑なに拒み続けてきた実質上のインフレ目標導入に対して、円安と株価上昇という現象が起きています。

為替レートは82円台まで回復し、日経平均株価は1万円近くまで回復しました(2012年3月13日現在)。

為替レート以上に注目するべきは株価上昇です。短期的に見ても、一定の効果があったとみるべきです。

さて、国際金融の世界では2010年頃から「通貨戦争」という言葉が使われています。

ことの発端は、ブラジルのド・マンテアガ財務相が2010年の9月27日、サンパウロ州工業連盟のセミナーの中で各国が自国通貨を安く誘導する「通貨戦争」状態にあるとの認識を示したことから始まっています。

ブラジルは、レアル高に苦しんでいる中において、主要国が金融緩和を通じて自国通貨安を狙っていることを批判したわけです。

これまでのマクロ経済学のテキストでは、自国通貨を意図的に切り下げることは「近隣窮乏化政策」と呼ばれ、好ましくない政策だと教えられてきました。

根底には、「輸出=得、輸入=損」という考え方があり、特に1930年代には輸出促進のための通貨切り下げと輸入品に対する高率関税を課す貿易戦争が誘発されました。

その結果、国際貿易は縮小して世界不況を招く原因となったというのがこれまでの定説でした。

しかしながら、最近の研究によれば事情がだいぶ変ってきています。早稲田大学の若田部昌澄教授は、大不況に関しての研究で「国際学派」と呼ばれるグループの見解を紹介し、世界各国の通貨安戦争は「近隣富裕化政策」になると紹介しています(エコノミスト 臨時増刊11月15日号参照)。

同教授は、当分野の先駆者であるB・アイケングリーン カルフォリニア大学バークリー校教授が主張する、「経済危機を脱出するための通貨切り下げ」を推奨していることを紹介していますが、これには一定の背景説明が必要でしょう。

特に、2008年のリーマンショック以降、各国は一斉に大胆な金融緩和を行いました。例えば、他国が何もしない状態で自国が金融緩和を行えば、それだけ自国通貨安の要因となります(例:円安)。

ただし、各国が同じペースで行う場合は、ドルやユーロの一方的な通貨安は起こりません。加えて、金融政策は国内の雇用創出やGDPの押し上げにもなるので、どこの国も傷がつくことはありません。

金融緩和の協調は、自国と他国両方にプラスの効果をもたらすという意味で、「近隣富裕化」と呼ぶのです。

しかしながら、他国が行っている金融政策に歩調を合わせない場合、その国の通貨は相対的に高くなります。加えて、不況のショックを緩和することができずにデフレも誘発します。

言うまでもなく、現状の日本経済を指しています。現在の円高は、日本の円が強いのではなく、むしろ通貨供給量が足りないために相対的に価値が高くなっていることが原因です。

要するに、日本は「為替戦争」に乗り遅れていたために、デフレ不況が慢性化しているのです。

実際に日銀は金融緩和を行ってはいますが、08年以降にバランスシートを一気に二倍にしたアメリカやイギリスと違って、二割程度しか増やしませんでした。

日銀は、金融緩和をやっているのですが、規模が不十分だということが問題なのです。

これまで一般的に信じられていた「為替戦争」は、金融緩和を伴わない為替介入や為替操作でした。

この場合、教科書が教えている通りの「近隣窮乏化政策」となるのは言うまでもありませんし、為替介入には一時的な効果しかありません。⇒[HRPニュースファイル078]為替介入をどうみるか

一方、金融緩和を通じた為替切り下げ競争は、デフレ不況から日本経済を救う回復手段としても有効だとも言えるのです。

なぜなら、金融緩和自体は一円も借金することなく、日銀の自由裁量によって行えるからです。

加えて、世界では不況打開のために金融緩和を容認しているのですから、日本が大胆な金融緩和をすることで困ることは一つもありません。

幸福実現党は、昨年から日銀の国債直接引受をはじめとする金融緩和とインフレ目標の提言をしてきました。

本年になってからは、『日銀総裁のスピリチュアル診断』発刊後に日銀の金融緩和と「事実上のインフレ目標導入」がありました。

これまでの一ヶ月を見てわかる通り、日銀が動くことによって為替レートと株式市場に好影響が出ています。

日銀は、成長分野への特別融資も発表しました。この一ヶ月でだいぶ積極的な行動に出ているのは評価できますが、まだまだ世界の「為替戦争」=「金融緩和の協調」から見たら不十分です。

幸福実現党は、引き続き日銀の金融緩和に対して提言をし続けていきます。(文責・中野雄太)


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